数年前、友人の父親が経営している建設会社の肉体労働のバイトを、友人とやっていた時のことである。
僕は急に便意を催した。
すなわち、ウンチョコである。
その現場には簡易トイレがある。用を足せるトイレがあるにはあるのだが、そのトイレときたら、まぁ〜臭い!
半径3メートル以内に近づいただけで激烈な臭いのである。
中に入ろうもんなら、どういうことになるかは想像に固くないであろう。
そこで、僕は、友人にウンチョコをしたい旨、そして、スーパーまで行ってウンチョコをしたい旨を伝えた。
豪胆な彼は、
「その辺の野っぱらでぶちかませばよかろう」
と言ったのだが、
「ティ、ティッシュはどうするんだよぉ。スーパーがいいんだよぅ」
と哀願すると、
「それはもっともだ。よし、行ってこい!」
と承諾してくれた。僕はスーパーまで車を走らせ、ことなきを得たのである。
ウンチョコは生理現象である。
食えば出る。
この人としての当然のコトワリを許されない時期が、人の長い人生には存在する。
その時期はというと、ズバリ小学生の頃である。
小学生の時に、学校のウンチョコをするトイレに入るところを見られようもんなら、
「わぁ〜、紀貫之!ウンチョコしただろ!近寄るんじゃねぇー!ウンチョコ菌がうつっちまう!」
といわれること間違いなし!
最低でも1週間ぐらい、“ウンチョコをした男”のレッテルを貼られ、しいたげられて学校生活を送ることになる。
ただし、このことは女性には当てはまらないかもしれない。
というのも、女性の場合は、ウンチョコとシッチョコをするところが同じなので、どちらをしているのかがわからないと考えるからだ。
その点男性は、ウンチョコとシッチョコをするところが分かれているからだ。
シッチョコをするために、大のトイレに入ることはありえない。
ましてや、小をするところでウンチョコすることは絶対にありえない。
したがって、男性の場合は、シッチョコをするのかウンチョコをするのかは、使用する便器を見れば一目瞭然なのである。
そこで、小学生の男子はどんなに便意を催そうとも、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、家に帰るまでひたすら便意と格闘しなければならないのである。
今の小学生もそうだとしたら…。うぅ〜、カワイソウ…。
まぁ、とにかく、男子はとにかくウンチョコを我慢しなければならないのである。
僕もご多分に漏れず、学校でウンチョコと格闘した経験がある。
あれは小学校6年生の頃だったであろうか。昼休みにクラスメイトとドッチボールをし、大いに汗をかいた5時間目の授業である。
汗が冷えたせいか、なんだかお腹の調子がおかしい。5時間目の授業が始まったあたりには
「うーん、なんだかウンチョコがしたい気がする」
という程度であった。
しかし、10分後には、
「うっ…。ウンチョコがしたい…、のか?いやいや、違う!絶対に違うッ!!違うったら違うのッ!!」
と自分に言い聞かせ、授業開始から20分後には、
「完全にウンチョコ!!ヤバイヤバイヤバイ!!」
という状態に陥ってしまった。
こうなればもう終わりである。
ウンチョス街道まっしぐらである。
ところで、便意には波がある。
ウンチョスは我慢していると、便意がおさまるのである。
しかし、そう思ったのつかの間、ドワワー!!と猛烈な便意が訪れる。
そして、またおさまる。
その繰り返しである。
そして、その両者の間隔は短くなっていき、最後にはウンチョコ一色に染められる。
それが便意のカラクリなのである。
悲喜交々。
まるで人生の縮図がウンチョコにはあるのである。
この日の僕も、例外なくそうであった。
上に書いたように、20分後には危機的状況ではあったけれども、スッーと便意が収まる時があり、
「あっ、いけるかも!こりゃ、いけるかもしれないぜ!!」
と心の中に叫びつつ、机の下でグッと握りこぶしを作る。
しかし、数分後には、猛烈な便意に襲われる。
ウンチョス君が、
「出してけれー!オラをこっから出してけれー!」
と肛門をドンドンとノックするである。
その時の僕は、例えるなら警備員である。笛を鳴らしながら、
「ピーピーピー!!肛門から出ないで下さい!ここは学校です!決して出ないでくださーい!!」
と注意を促す。するとウンチョス君は、
「ちぇ〜!」
なんて言いながら引き下がってくれる。
しかし、1分後には
「どもー!ウンチョコでーす!やっぱ、ダメっすか?」
なんてなとぼけたことをいいながら、肛門付近に顔を出すのである。
そんな格闘を20分ぐらいしただろうか。
僕は、本当に目を白黒させながら授業を受けて続けていた。
憔悴しきった僕は、黒板の上にある時計に目をやった。
授業終了まであと5分である。
なんとか6時間目も我慢し、家でぶっ放すか。
それとも、学校でウンチョコをぶちかまし、ウンチョス男として残りのスクールライフをすごすか。
僕は最後の力を振り絞り思考した。
しかし、この現状のまま6時間目に突入しようもんなら、授業中にウンチョスをもらしてしまうのは火を見るより明らか。
“ウンチョコ男”よりもますます酷い、“ウンチョコ漏らし男”まで成り下がってしまう。
僕は“ウンチョス男”のレッテルを貼られようが、ウンチョコだけにどんな汚名を着せられようが、ウンチョスを授業中に漏らすよりあマシ。
僕は学校でウンチョスをぶっ放すことを決意したのである。
授業が終わる1分前からカウントダウンが始まる。
「こちら、NASA。ポールロケットがトイレに向けて発射するまで残り1分。」
僕は時計をみる。
「5・4・3・2・1、発射!!!」
僕は発射の合図と同時に、椅子という名の発射台から飛び立った。
授業が終わり話しかけてくる友人を振り切り、トイレまでダッシュである。
マッハでトイレに入り、マッハで鍵を閉め、マッハでズボンを下ろす。
そして、マッハで用を足す。
この幸せたるものや、筆舌し難いものがある。
サッ、とテッシュで桃尻を拭き、サッとトイレから出て、僕は何食わぬ顔をしてサッと教室へ戻る。
幸運にも気づいている友達はいないようである。
「よぉ、紀貫之よ。どこに行っておったのだ?」
僕は答える。
「ちょっとしたヤボ用さ。話すまでもない。」
友達は、
「ほー。まっ、いっか。ところでよぉ…」
ばれてないー!!!
ウンチョコをしたことがばれていないのである!!
ランランラン♪僕はスキップをして世界中を旅をしたくなった!
僕は残りのスクールライフを“ウンチョコ男”として過ごさなくてよくなったのである。
それだけです。はい。