羽田空港まで行ってきた。
走って、だ。
「飛行機が見たい!飛行機の飛び立つ轟音を聞きたい!じかに飛行機を見て、鉄の塊が飛ぶのを知りたい!見たい知りたい聞きたい」
29歳の男は、突然そう思ったのだ。
また、もう一つの動機として、汗だくのジャージ姿の男が空港にいたら面白いではないか。
「なんで汗だく!?まさか走ってきた!?」
そんな妄想をすると、走っていきたくなったのだ。
17時過ぎぐらいに家を出る。
環状8号線をひた走る。ズイズイと羽田空港まで進むのである。
健康のためという意味もあって走っているんだけど、いかんせん車どおりが多い。必然的に排気ガスを多量に吸引。健康のために走っているのか、不健康のために走っているのかわからなくなる。
あたりはすっかり暗くなってきた。
なにやら交番の周辺で、検問らしきものをやっているようだ。捕まっている車がある。ゴシップ大好きな僕としては、当然、走る速度をゆるめる。
するとだ、若い警察官が僕に向かって、
「お疲れ様ですッ!!!」
挨拶をしてくるのだ。僕は心中、
「走っている僕にお疲れ様?ずいぶん丁寧だなぁ〜」
と思った。
しかしだ、僕は一瞬で気づいた。僕の着ているウィンドブレーカーは紺のアディダスである。あの若い警察官の奴、僕を警察官と間違えやがったな。
若い警察官も気づいたようで、
「しまった!」
という顔をしている。僕はニヤニヤしながら、
「おつかれさま〜」
と言ってやった。彼は照れ笑いをしていた。
なんか勝ったような気分になった。
僕はひた走る。ズイズイと羽田空港まで進むのである。
するとだ、分岐点に差し掛かったのである。
右へ行くと第1ターミナル。左へ行くと第2ターミナル。
僕はエアドゥをこよなく愛しているし、姉は全日空で働いている。僕は迷いなく第2ターミナルへ向かったのである。
僕はひた走る。ズイズイと羽田空港、第2ターミナルに向かうのである。
少しずつ飛行機が大きくなってくる。大きくなる飛行機の飛び立つ音。
まだまだ大きくない。もっと近づきたい。走る速度は上がっていくのである。
29歳。男。
なんだかウキウキしちゃってしかたないのである。
『以降、歩行者・自転車は通行不可』
えっ!?
中途半端。飛行機の大きさも、飛び立つ音も。すべてが中途半端なのだ。
「なぜだ!なぜ飛ぶんだ!なぜ行き止まりなんだ!」
フェンスをわし掴みにして、飛行機の飛び立つ轟音の中、僕は叫んだのである。